散切り頭を叩いてみれば

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山と旅行の見聞録

散切り頭を叩いてみれば

運転下手が登山バスで行く剣山 小屋のこたつと星空の見納め

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徳島県にある日本百名山、剣山は標高1,955mで、西日本で2番目に高い山だ。

その一方で登山口駐車場が1,400mの高地にあることから、山頂まで駐車場からたったの1時間半。

さらに駐車場奧から中腹までを繋ぐロープウェイを使えばたった1時間で山頂に立てるため、百名山の割には登頂がお手軽な山である。

 

では剣山に登る上で一番何がしんどいか。

 

それは登山口駐車場までの道のりだと思う。

まあ、未だに左の車幅感覚が全く分からず、運転を半ば諦めた私の個人的意見ではあるが。

 

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屈指の奥深さを誇る四国山地の奥の奥にある剣山に向かうには、複数あるいずれの道路からでも細い山道を40km以上も運転することになる。

 

とはいえ、実際のところ道路脇に退避場所はあるから、運転が好きな人や得意な人には全く苦にならないことかもしれない。

 

しかし、私のような軟弱男や運転の苦手なペーパードライバーの女性は、登山前のこの行程は冷や汗ものの死活問題である。

 

たとえ決死の覚悟で幾度となる離合を成し遂げたとしても、緊張に緊張を重ね、1時間以上も葛折りの山道を運転しては、登山前に疲労困憊間違いない。

 

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そこで便利なのが麓の町が運営する登山バス。

町中にある駅もしくは道の駅から、登山口までコミュニティバスで優良送迎してくれる。

 

本数は少ないものの、寝てても登山口に着くし、何よりうんと気が楽になる登山バスを使って、今回は剣山→一ノ森→槍戸山の山頂を踏破し、剣山頂上ヒュッテに宿泊した。

 

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1日目

2019年11月中旬

 

剣山頂上ヒュッテは来週が最終営業、そして登山バスは翌日が最終運行となるこの日の早朝、関西から徳島県へ自家用車を走らせた。

 

まず目指す目的地は、道の駅貞光ゆうゆう館。

ここの駐車場に自家用車を止めて、そのまま始発で来る登山バスに乗り換える。

降りてくるまで、道の駅に車は放置して構わないらしい。

 

前日に少し駐車場の空き状況が心配になったため、

もし満車の場合は?と役場へ問い合わせてみると、

「あーその場合役場に駐車すれば良いですよ」と。

それは本当にいいのか。

 

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実際のところ、役場への確認は杞憂に終わった。

早朝で売店がまだ営業前ということもあり、心配の必要なく駐車場には全然余裕があった。

 

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目の間には、大きな弾幕がかかっていた。

こちらは車内で山装備に着替えていると、トイレの脇に例の貞光一宇ルートの始発登山バスが到着。

 

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到着したバスは、思っていたバスの数倍小さかった。

おまけにバス自体には登山バスということは何も書いていない。

 

側面にコミュニティバスと大きく書かれていることからも分かるように、平日含め、普段は町の集落を行くコミュニティバスとして使用されている道を通過するらしい。

 

登山バス運行時のみコミュニティバスは特別便として、集落のさらに登山口の奥の見ノ越駐車場まで連れて行ってくれるようだ。

 

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午前7時30分


10人乗車できるかできないかの小型バスに揺られ出発。

 

道の駅を出た後は貞光駅に立ち寄り、つるぎ町の県道439号線の山道を登っていく。

 

初めは道幅もそこそこあるので、

「これくらいなら自分で運転でもいける気がしてきた」

と思ったのも束の間、道の駅から10キロほど進んだ剣山雄馬温泉あたりから確かに山道らしい車道が始まった。

 

道自体は全て舗装されているから、特にダート対応車である必要はないが。

 

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午前8時30分


1時間後、バスから降りるよう促されたため「あれ..思ったより到着早いなあ」と思いつつ降りた。

 

到着ではなく、単なるバスの乗り換えらしい。

 

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ここ、つづろお堂バス停まではコニュニティバスの経路内。

要するに、つづろお堂⇔見ノ越駐車場を運ぶ運転手と、町中⇔つづろお堂を運ぶ運転手。
2人のおじさんのバトンタッチがこの場で執り行われる。

 

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そして、つづろお堂⇔見ノ越駐車場を運ぶおじさんのバスに乗り換え、さらに山道を登る。

 

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午前9時20分 

 

つづろお堂から、さらに約50分。

ついに見ノ越駐車場に到着した。

 

11月中旬となると、年によっては積雪や路面の凍結紙があるようだが、今回全くそういった路面状態は見られなかった。

 

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さて、見ノ越駐車場は朝の時点でまずまずの駐車率。奥のロープウェイは運行中。

やはり紅葉も終わっているため、ここらに観光客は皆無でまばらに登山客、といった具合である。


個人的には、紅葉でにぎわう登山道は少し疲れる。

たとえ紅葉が終わっていても、シニア登山者がどっと押し寄せた少し後の落ち着いた時期も悪くない。

 

例えば小屋締め直前の涸沢や夏祭りの翌朝の会場のような、物寂しい雰囲気の方がむしろ好きかもしれない。

 

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午前9時30分

 

今回の剣山も、例に違わず冬支度で物寂しい登山道。
見ノ越駐車場から少数の売店が軒を連ねる車道をほんの少し歩き、剣山神社へ。
本殿を前にして右手に抜けると、登山道の案内がある。

 

なお、ロープウェイに乗るとき勘違いしやすいのだが、ロープウェイは山頂近くまでは連れて行ってくれない。

あくまで中腹まで、通常歩けば40分のところ15分に短縮できる、それだけの乗り物である。

 

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準備運動程度の運動量で、ロープウェイ終点の西島駅に合流。

更にそこから1時間、登る。

 

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全く岩場などの危ない箇所はなく、スニーカーでも汚れさえ気にしなければ山頂へ行けてしまう道のり。

 

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午前11時

 

見ノ越駐車場から1時間30分、山頂直下にある剣山頂上ヒュッテに到着。

今夜は新月

月が見えないので星がよく映る。ここで宿泊し、ゆったりと空を眺める予定だ。

 

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ヒュッテの中は清潔感があり、1階食堂は居心地が良い。

 

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また、部屋は個室と大部屋に分かれており、予約の際に選択できた。

 

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宿泊部屋は食堂から2階に階段を上がる。

 

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2階に上がるとすぐ靴を脱ぎ、靴箱へ収納の上、廊下へ上がる。

 

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今回私が泊まる部屋は個室。

秋も深まると個室に関してはこたつが備え付けられる。

11月中旬、山の上で下界より一足先にこたつに入る。

何とも言い難い至福の時である。最高。

 

ヒュッテで一服したのち、山頂へ向かう。

 

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山頂へはヒュッテの横の階段を上り約2〜3分。
木道が整備されており、近所の散歩気分で向かうことができる。

 

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以前訪れた際にも思ったのだが、剣山の外国人観光客割合は異常。
異国のさらにこんな僻地の情報は、どこから大量に海外へ流出しているのだろうか。

 

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午前11時30分

 

剣山山頂へ到着。

山頂柱は、百名山の名に似つかわしくなく地味である。

 

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剣山から西隣、次郎笈を背景に自分の写真を撮るのが外国人の定番のようであった。

次郎笈という変わった名前は、この牛の背中のような山の名で、西日本第4位の高峰。

ここを超えて、日本二百名山三嶺まで縦走するのが剣山地の鉄板コースとなっているが、
今回は剣山頂上ヒュッテで宿泊するため、いっそのこと逆方面の一ノ森を散策してみる。

 

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一ノ森方面は次郎笈方面と違い、ぐっと人の数が減る。

 

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もっとも、山頂直下にある一の森ヒュッテが既に今年度営業を終えていることが一番の要因だと思うが。

 

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剣山から一ノ森に向かう稜線。

よく剣山界隈の画像で使われる、牛の背のような次郎笈方面の景色も良いが、亀の甲羅のような一ノ森方面の景色も悪くないよと、声を大にして言いたい。

どこの人に対しては分からないが。

 

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四国の山は、基本的に笹が生い茂る。

一ノ森方面も、基本的には笹の間にできた歩きやすい道を進む。

 

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たまに樹林帯に突入したかと思えば、またいつもの笹原に戻る。

 

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来た道を振り返ると、右に剣山。左に次郎笈

ここから見ても分かるとおり、剣山の山頂は木道整備されているように平坦だ。

星も観察しやすそうである。

 

 

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午後12時30分

 

剣山山頂から約1時間、一ノ森へ到着。

剣山の賑わいと比較し、本当に地味といった感じである。

晩秋の季節なのか、人っ子ひとりおらず、誰ともすれ違う気がしなかった。

 

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山頂直下の一ノ森ヒュッテは前週末までの営業。

もう山小屋の人も出払ってしまったのか。

 

古い洋館のような佇まいも相まって、少し異様な雰囲気を放っていた。

かのように感じたのは、あくまで私が臆病なだけかもしれない。

 

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まだ夕食までだいぶ時間を持て余している。

一ノ森を過ぎ、さらに奥の槍戸山へ向かってみることとした。

 

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槍戸山へ向かう道中。

東側の剣山スーパー林道、天神丸方面。

 

はて、スーパー林道ってどういう意味だ。

ただでさえ恐ろしい林道に、さらなる強者がいるとは聞いていない。

細道山道を運転することにひたすら避け怯え、命からがら登山バスを利用してここに来た私は戦慄した。

 

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一ノ森から槍戸山への道は、荒れ気味。

歩けることには歩けるが、ここまで来る人がだいぶ少ない事が想像できる。

 

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ああ、笹が、邪魔...

 

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午後14時

 

一ノ森を出発して約1時間程度で、槍戸山到着。

一ノ森よりさらに人の気配がしない。

今日同じ場所に私以外の人間が立った気がしない。

 

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ここから見える次郎笈は、剣山から見る時とは全く形が異なって見える。

 

ただ、それ以外に特に槍戸山自体に目ぼしいものはないので、早々に引き返す。

 

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剣山から各山頂までは共に1時間が目安。

帰りは若干巻けるかもかもしれないが、おおよそこれくらいはかかると思う。

 

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少し夕暮れが近づく。

 

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午後16時

 

剣山へ帰着。

11月も中頃を過ぎると、うんと日は短い。

もうすぐ陽が沈む。

 

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次郎笈の西側に、陽が落ちようとしている。

写真では伝わらないが、物凄い暴風が山頂付近を吹き抜けている。

 

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夕焼けが美しい。

ただ、風がすご過ぎて、正直なところ

「早く日没」

と思っていたのもまた事実。

 

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ブルーアワーが訪れる。

風は物凄かったが、冬の訪れ前に綺麗な夕焼け、良い時間を過ごせた。

「そろそろ山小屋の晩ご飯の時間だ、早く戻ろう」
と思い、後ろを振り帰ると

 

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私以外には、誰も夕陽を見ていなかった。

 

やはり空へ飛び立てそうな爆風であったし、無理もない。

凍えそうな私も、そそくさと宿へ戻った。

 

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晩御飯はアマゴの唐揚げ。

以前宿泊した際にも提供されたことから、定番メニューとして固定化していると思われる。

山小屋でハンバーグはよく見るが、アマゴはまだここ以外見た事がない。

 

夕食後は部屋に戻ってこたつで少し体力を充電し、星空を眺めに再度外へ。

夕暮れ時の爆風は、嘘のようにぴたりと止んでいた。

 

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外は満点の星空。

 

ここ剣山は西日本でも屈指の星空スポットだと聞いていたが、その話は間違いではなかった。

ヒュッテのおかげで、歩いて数分で真っ暗闇の山頂に到着できることも、星空鑑賞において高い評価につながっているのだろう。

 

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ただ、四国の奥地の奥の暗闇と言えど、遥か遠くに市街の町灯りが確認できる。

こんな遠距離まで光が漏れ出ているとは、限りなく人工の光は強い。

 

小一時間ほど星を見たのち、部屋に戻る。


個室のため、消灯時間は自由。
山小屋にしては少し夜更かし、午後10時頃就寝した。

 

 

 

 2日目

 

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午前5時40分


12月が近づくと、日の出も遅い。
今日は昼までに戻らなければならず、それに間に合うようバスに乗らなければいけない。

見ノ越駐車場発の登山バスは、午前7時45分発、午後1時30分発、午後15時発の一日3本と、本数が異様に少ない。

 

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宿の朝食は早めに用意してもらった。

日の出を見届けた後は、一目散に見ノ越駐車場まで駆けおりないと。

 

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午前6時30分

 

一ノ森方面から太陽が昇る。

 

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午前6時45分

 

さあ、下山開始。

運行本数が極端に少ないのが、この登山バスの欠点か。

 

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登りも比較的楽な部類に入るが、帰りはさらに楽。

 

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バスに間に合わなければ半日待ちぼうけのため、結構スピードを飛ばした。

登山道も浮石等はなくきれいに整備されており、40Lザックを背負いながらでも駆け足で下りられた。

 

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午前7時


下山開始から約15分でロープウェイ西島駅に到着。

随分と陽は昇り、周りの山々も良く見える。

 

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ここから見る三嶺の山容は、周りの目を引く存在感と格好良さである。

 

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午前7時20分

 

駆け足で降りること35分、見ノ越駐車場に下山した。
急げば下山に40分もかからないようだ。

 

まあ、実際のところだいぶ急いだが。

 

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午前7時40分

 

出発時刻5分前にバスは到着。

こんな時間に下山する客が他にいるはずもなく、乗客は他にいなかった。

 

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バスでの帰路は爆睡するつもりだったが、コミュニティバスのおじさんの雑談が凄まじく、全く寝る隙を与えてはくれない。


ひとつだけ覚えている話、剣山ではここ数十年熊を見たことがないらしい。

それ以外の話は全部忘れた。

 

結局は乗車して1時間後に一人、集落から地元の老人が乗車してきたため、会話を老人に引き渡し、少し睡眠。

 

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程なくして道の駅に到着。今日も晴れ。

 

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道の駅に駐車していたマイカーで近くの「剣山木綿麻温泉」に立ち寄り、昼過ぎに帰路へ就いた。

 

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剣山は駐車場からあっという間に山頂に着くし、西日本では珍しく山頂には有人の山小屋があるから非常に便利だ。

さらには三嶺まで続く縦走路は展望が開けており、気分の良い山歩きができる。

 

やはり剣山は良い山だと思う。

そう、駐車場までの山道さえなければ。

 

ペーパードライバーより。