赤岳鉱泉に泊まる大晦日 八ヶ岳から拝む2020年初日の出
年末年始、今年はどうやって過ごそうか。
特に毎年見たいテレビ番組がある訳でもなく、特に下界でやることもない。
それならば、いっそ山で年を跨ぐのはどうかと考えた。
冬山のテント泊は気力的にも体力的にも不安だが、幸い八ヶ岳には年末年始も営業している山小屋が複数あるらしい。
2019年は八ヶ岳の山小屋・赤岳鉱泉で年を越し、赤岳に登って2020年初日の出を見たい。
こんな算段で、年の瀬仕事を片付け、長野に車を走らせることにした。
12月31日、午前8時
赤岳鉱泉に向かうため、美濃戸登山口へ到着。
駐車場は有料で、1日あたり500円の駐車料。
料金は、同登山口にある八ヶ岳山荘で下山後に支払った。
駐車場の中は積雪及び若干凍結していたものの、登山口までの道中はご覧のとおり。
もう1月にもなろうというのに、運転の支障になるような積雪や凍結などは全くなかった。
駐車場から少し歩けば登山口。
そういえば、今回宿泊する赤岳鉱泉の大晦日は、各登山メーカー等から協賛があったり景品の当たるビンゴ大会が開催されるなど、豪勢らしい。
私はもうビンゴ大会で無邪気に喜べる年齢ではないが、それでも少し楽しみではある。
本日は天気も芳しくなく、赤岳鉱泉に到着した後は、夜までまったり過ごしたい。
そんなことを考えながら、登山口を出発した。
午前8時15分
まずは1時間程の林道歩き。
美濃戸口駐車場からの1時間は四駆+スタッドレスであれば省略でき、その先の美濃戸駐車場に駐車することができる。
ひたすら車が通った雪道を歩き続けるだけの作業、登山道としては単調この上ない。
路面に注目してみると、結構嫌らしい感じで街乗り車は走らせたくない。
下の美濃戸口駐車場に注射する際、二駆+スタッドレス装着の自家用車で林道をつき進もうかと一瞬考えたが、この状態では難しかったであろう。
登山に加えて下山後の余計な心配をせずに済むよう、一番麓の美濃戸口駐車場に駐車した選択は間違っていなかったように思う。
傾斜はあまりなく、慎重に歩けばチェーンスパイクさえつけなくてもなんとか歩句ことができた。
午前8時50分
1時間程歩けば、赤岳山荘駐車場に到着。
能力値の高い車のみここまで入って駐車できる。
つまり、往復2時間の林道歩きを短縮できるということだ。
行きも帰りもそうだが、厳つい車に追い抜かれる度、自分も乗せて行って欲しいと何度思ったことか。
赤岳山荘から少し登った場所にある美濃戸山荘も通過したところが、南沢ルートと北沢ルートの分岐点である。
今回は赤岳鉱泉に向かうため、北沢ルートを選択した。
ここらあたりから傾斜が少しきつくなってきたため、面倒臭いとは思いつつ、アイゼンを装着した。
すぐに深い山歩きへと変わる 南沢ルートと違い、赤岳鉱泉への最短経路となる北沢ルートはしばしの林道歩きが続く。
午前9時50分
林道の終点には通行を防ぐバリケードが立っており、やっとここで沢沿いを歩くことになった。
雪は積もっているものの、沢は凍っておらず。
鉄分なのか?見るからに赤茶色で特徴的な色。
これが平常運転なのであろうか。
午前10時50分
美濃戸口を出発して約2時間30分、本日の目的地である赤岳鉱泉に到着した。
冬季限定の人口の氷壁には、既に中国系と思わしき登山グループが取り付いている。
裏から小屋内に入り、窓口にて受付を行う。
右に目をやると、今日の晩御飯の献立が掲示されてあった。
どうやら今年の大晦日の主役は、ビーフシチューのようである。
私は実のところ、赤岳鉱泉の名物と言われるステーキをひそかに楽しみにしていた。
というより、毎日晩御飯はステーキが出るものだと勘違いをしており、とも限らないことをその場で初めて知り、少し肩を落とした。
玄関には、大晦日限定で夜開催されるビンゴ大会の告知。
1枚500円で、課金を繰り返せばビンゴカードはいくつでも調達可能。
財力にものを言わせることが容易に可能な大人の行事である。
私はふと、一人一枚の用紙に汗握った小学生の頃に戻りたくなった。
この大会は皆1枚の平等ではない。
少年時代とは別物だ。
...売店を前にして、気づけば私も2枚購入してしまっていた。
食堂は広々としていた。
各々が暖をとったり談笑したり、昼下がりの時間をゆったり過ごしている。
広間の一角に腰かけて周りを眺めてみると、殆どの登山客がグループもしくは男女の2人組であった。
大晦日に一人で山小屋に宿泊する者は、皆無である。
食堂では、Wi-Fiも整備されているようだ。
なるほどしかし、私にはうまく使いこなせなかった。
残念。
ここが相部屋。
大晦日という特別の日とはいえ、一人一枚の布団は確保されていた。
個室はこたつ付きのようだ。
グループであれば個室に泊まるとより楽しい、はず。
トイレもしっかりと手入れされていた。
非常に綺麗で使いやすい。
まだ日没までには時間があったため、天気が好転すれば近くの中山展望台まで散歩しようかとも考えた。
が、日中通して晴れ間が見えることはなかった。
午後4時30分
夕食の時間である。
受付の掲示板で確認した通り、本日はビーフシチュー。
美味しく頂いたが、食事中も脳内はステーキでいっぱいであった。
午後7時20分
そろそろビンゴ大会が開催を迎える。
座席は用意されているものの、圧倒的に客の方が多い。
開催時間より早めに食堂へ集合していなければ、座席スペースの後方にて立ったまま参加することになる。
2時間立ちっぱなしは案外きつい。
特に用事がなければ早期に食堂へ集合し、座席が確保できる位置で待機しておくのが望ましいように思う。
午後7時30分
ついにビンゴ大会開催。
まず席取り争い。私は敗北のため、立ち見である。
ほぼ全ての宿泊客が一堂に会しており、熱気が物凄い。
真冬の標高2,300mにも関わらず、暑い。
まずは宿から乾杯の酒が配られる。
特に必要のない人は、受け取らなければ良い。
引き続いて、企画を取り仕切る小屋主の方の挨拶。
他の従業員の方も協力し、企画を盛り上げてくれている。
ビンゴ大会は2時間の長丁場であった。
たまにじゃんけん大会等も挟みつつ、年の瀬の非日常を満喫。
前に置かれた数多くの景品がなくなるまで、ビンゴ大会は続けられた。
ビンゴ大会終了後、午後10時30分まで食堂の使用は可能であった。
また、この時間に小屋から年越し蕎麦も提供された。
有難い。
明日の天気を確認し、程なくして消灯。
2020年への年越しの瞬間は、暗闇の中宿泊客のいびきが響き渡っていた。
午前2時30分
起床。
初日の出を拝むため、出発時刻は早い。
午前3時15分
玄関で着替えや軽い腹ごしらえをし、軽く体をほぐして出発。
今いる赤岳鉱泉は八ヶ岳の西側に所在している。
太陽は八ヶ岳の東側から昇るため、稜線上に出ないと初日の出は拝めない。
まず初めの1時間は行者小屋までの森歩き。
中山という小山を超えるため、前半30分は登り、後半30分は下りである。
午前3時45分
行者小屋へ到着。
行者小屋も大晦日は営業中とのことだが、出発準備をしている者は見当たらなかった。
行者小屋からは、稜線を目指して地蔵尾根と呼ばれる尾根をひたすら登る。
12本爪のアイゼンさえ装着していればこの行者小屋までは来れると思われるが、
地蔵尾根についてはピッケル必須である。
今までの道とはうって変わり、傾斜が数段厳しくなった。
暗闇の中、時折出現する梯子に少し尻込みする。
途中から頭上の木々が減り、景色が見渡せるようになってきた。
背後に街明かりも確認できる。
午前5時
地蔵尾根の執着点、地蔵の頭に到着。
ここから右いいくか、左に行くかの選択が迫られる。
私は太陽と合わせて赤く染まる赤岳が見たい。
であれば、被写体から離れる必要がある。
そこで左の横岳方面に歩き、適当な位置で夜明けを待つことにした。
ここから1時間以上、暴風の稜線上でじっと空が明るくなるまでひたすら耐えた。
今回の山行で一番の失敗は、夜中の出発が早すぎたことである。
今回は張り切って早起きしすぎて、危うく凍え死ぬところであった。
振り返ってみれば、3時半に起床しても問題なく日の出に間に合う。
反省。
午前6時20分
空が明るくなってきた。
新年の太陽の光に照らされる赤岳と富士山が美しい。
阿弥陀岳方面も、ゆっくりと赤紫色に染まりゆく。
もう少しで、夜が明ける。
午前6時50分
2020年初日の出。
他に誰もいない、静かな年の始まりである。
文句のつけようがない、綺麗なご来光だった。
1時間以上も凍えながら耐え忍んだ私の体感温度も、これでぐっと上昇した。
赤岳がその名の通り真っ赤に染まり上がる。
あけましておめでとう、2020年。
そろそろ赤岳山頂を目指し、歩きだすとする。
右に目を向けると、諏訪湖と更に奥に山脈が見える。
天気が完璧だ。
日が昇り始めると、あっという間に明るくなってきた。
稜線上は強い風が吹き抜けることもあっては、岩肌が所々剥き出しになっている。
午前7時45分
赤岳展望荘に到着。
年末年始はここも営業中。
私は大して下調べもせず赤岳鉱泉に宿泊したが、夜中に地蔵尾根を登るのは中々にスリリングであった。
もし初日の出を楽に見るのが主目的であれば、日中のうちに稜線上の赤岳展望荘まで登り、宿泊するのが最適解だと思われる。
赤岳展望荘上の看板を通過し、赤岳頂上山荘が見える山頂を目指す。
快晴ではあるものの、人は全く多くない。
赤岳展望荘から山頂までの道は無雪期でも結構な急登だが、雪山でもそれは同様。
息を切らし、汗をかきながら、登る。
午前8時30分
赤岳山頂に到着。
頂上には数人の先客がいた。あまり山頂は広くない。
来た道を振り返ると、横岳・硫黄岳を越え、天狗岳等の北八ヶ岳まで手に取るように見渡せる。
山頂には、大量に霧氷が付着した祠が2つあった。
赤嶽神社奥宮の祠は右で、左の祠は知らない信仰宗教団体のものらしい。
良い悪いではないが、左の方が立派というのは何とも言えない気分になる。
右の祠にお参りし、山頂を後にした。
山頂直下から南へ続く先には、権現岳。
と、さらにその奥の南アルプスまで。
霞も少なく、はっきりと確認できる。
下山は文太郎尾根、行者小屋経由で。
荒々しい山容で、よく滑落事故の発生する阿弥陀岳を左手に見ながら下る道のりである。
文太郎尾根も結構な急登。
ピッケルを用いながら、安全第一で下りる。
午前10時
行者小屋へ帰還。
手前に尖った横岳、奥に丸い硫黄岳が見える。
深夜に通過した際は、勿論分からなかった。
行者小屋から美濃戸口の駐車場までは、南沢ルートとなる。
行きは赤岳鉱泉に向かうため北沢ルートを選択したことから、この道は初めて。
昨日降った雪が、今日の晴天で溶け始めているのであろうか。
木々の中を通り過ぎているとたまに、上から溶けかけた雪が落ちてくる。
午後12時15分
美濃戸山荘まで戻ってきた。
1月とはいえ、直射日光が当たると、あっという間に雪が解けていく。
ここまで来ると少し足元の雪が水っぽく緩まる。夜中に稜線上で凍えていたのが嘘のようだ。
美濃戸山荘を通過し、赤岳山荘付近から後ろを振り返ると、阿弥陀岳が存在感を放つ。
あの稜線に程近い場所で今年は初日の出を拝んだのかと思うと、不思議な感覚である。
味気のない林道も、夜中からの長い一日を回想しながら歩くと、少し気が紛れる。
しかし、林道終点まで進める強そうな車に何度も追い抜かれながら、少し気は乱れる。
午後1時
昼過ぎに下山完了。朝からちゃんとした食事はとっておらず、非常に空腹だ。
2020年初めての昼食は、美濃戸口駐車場横に所在するJ&N。
年間を通して人気のレストランであるが、驚いたことに元日も営業していた。
私はここで、赤岳鉱泉で食べ損ねたステーキまで食せたのである。
評判通り、とても美味かった。
大晦日から元日にかけて。
今回の旅、一年始まり、なかなか上々であった。