散切り頭を叩いてみれば

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山と旅行の見聞録

散切り頭を叩いてみれば

閑寂の鳥倉林道 小河内岳と寒天の空

f:id:yugataquintet:20201230195152j:plain2020年10月下旬、南アルプスの小河内岳に1泊2日かけて行ってきた。

長い長い林道歩きに嫌気がさしつつ、2日目の朝に拝んだのは、青い秋空と最高の景色。

全行程を通して誰ともすれ違わない、絶景を独占できた満足の山行だった。

 

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土曜日の朝。

2020年は鳥倉林道が工事のため、キャンプ場との分岐あたりから先へは進めない。

林道脇の駐車スペースに車を停め、林道を歩いて鳥倉登山口へ向かう。

 

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秋の朝日が降り注ぎ、気分は上々。

それでもアスファルト舗装路を固い登山靴で歩くのは、いささか疲れる。

 

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工事箇所はここのことか。

特に車で通っても問題なさそうに見えるが、まあ駄目なものは駄目なんだろう。

 

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この工事通行止めのせいで、駐車位置から登山口まで片道5km超。

まだ誰とも会わないし、流石に往復10kmも歩く物好きは少ないだろうな。

 

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工事による通行止めがなければ、本来はこの駐車場に停められたはずだった。

鳥倉登山口まで約3km。

今回に限っては、ちょうど中間地点過ぎといった具合だ。

 

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林道歩きの時点で、南アルプスの稜線は見えた。

茶臼山方面かと思うが、どうかな。全然自信はない。

 

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林道の最後は舗装路から砂利道へ。

いずれにしても一般登山客はここまで歩いてしか来れないし、あまり路面状況は関係ないか。

 

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通行止めゲートから歩くこと1時間15分で、ようやく鳥倉林道の登山口に到着。

これでもだいぶ早歩きしたほう。

おかげさまで、しっかり体は温まった。

 

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登山道は落ち葉が地面に敷き詰められており、たまに踏み跡が不明瞭な場所も。

もういよいよ、冬の足音が聞こえてきそう。

 

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鳥倉林道にはお馴染みの、三伏峠までの10分割標識。

三伏峠に出るまでは、基本的に展望は開けない。

人によってはこういう標識は疲れるらしいが、自分はそんなこと感じないけどなあ。

 

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ここ鳥倉林道は、主に日本百名山塩見岳のメインルートとして使われる。

以前通った時は去年の夏山シーズン。

塩見岳を目指す登山者で、もっと賑わっていた記憶。

 

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でも今回は、冬山間近のこんな季節。

林道工事でさらに行程が伸びたことで避けられているのか、人の気配も全く感じない。

夏にがぶ飲みした水場の天然水も、すっかり枯れてしまっていた。

 

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標識9/10が近くと、稜線上の景色がたまに見えてくる。

中央右に見える立派な山体が塩見岳

今回向かう小河内岳からも、それはよく見えるはず。

 

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「日本一高い峠 三伏峠小屋 あと200歩です」

山小屋によくある看板。

実際にはそんな歩数で到着しないというのも山あるあるだが、ここに関してはほぼ正確だった。

 

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三伏峠小屋が目に入れば、そこがまさに峠。

単調な標高上げ作業もここでひと段落。

 

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2020年は三伏峠小屋も新型コロナウイルスによる休業で、トイレすら使えない。

裏手にあるテント場も、もちろんこんな状態。

立地は最高だから、早くここにテントを張ってみたいんだけどなあ。

 

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小屋の裏手をさらに進むと、塩見岳方面と小河内岳・荒川岳方面との分岐がある。

実は去年の塩見岳登山の際、この標識で小河内岳の存在を初めて知った。

ここまでのコースは同じといえど、当時も殆どの登山者が塩見岳方面に向かっていったように、知名度には雲泥の差がありそうだ。

 

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ともあれ、人が少ないのは好都合。

まあ今日に限っては、塩見岳すら登山者は皆無だろうけれども。

 

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小河内岳に至るには、烏帽子岳、前小河内岳という2つの峰を超えていく。

その殆どが稜線歩きで景色が開けている一方、悪天時は小河内岳にある避難小屋まで何もないのが辛い。

 

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三伏峠塩見岳との分岐から烏帽子岳までは約40分。

確かに言われてみれば、山頂が烏帽子の形をしていなくもない。

 

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烏帽子岳に到着。ここから見える塩見岳は、圧巻の迫力だ。

塩見岳を眺めるだけなら、ここで引き返しても全く十分だと思う。

 

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ここから進む稜線。

手前が前小河内岳。奥が小河内岳。

今日麓では木枯らし一号が吹いたらしく、風が非常に強い。

雲量も増えてきて、じきに稜線も雲に包まれそう。

 

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下っては登り返し、次に向かうは前小河内岳。

ここも烏帽子岳から40分くらい。

 

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前小河内岳山頂には三角点があるだけで、標識らしきものは見当たらない。

風も次第に強くなってきて、止まっていられない。

体も冷えてくる為、先を急ぐ。

 

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前小河内岳を越えて一度下り、小河内岳へ登り返す。

見えてくる三角屋根は小河内岳山頂直下にある小河内岳避難小屋。

 

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小河内岳山頂に近づくと積雪も見られた。

アイゼンはなくともそっと通過できる程度で、ほっと一安心。

 

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そして前小河内岳から40分、林道ゲートから6時間で小河内岳山頂に到着。

体感で風速15mくらい。如何せん、風が強すぎる。

下山は大事をとって明日に回し、今日は小河内岳避難小屋で一夜を明かすことにした。

 

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 小河内岳避難小屋は外も中も綺麗で、立派な作り。

山頂からも5分とかからないので、立地も申し分ない。

 

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トイレは閉鎖中。

小屋も1階の通常入口は閉鎖されているため、入るのは2階の冬季入口から。

 

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2階は階段に通ずるだけで、寝泊りできるのは1階部分のみ。

 

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快適に過ごせるのは、10人以下といった具合か。

湿気やカビの匂いもなく、なんなら我が家より遥かに綺麗。

冬も近いこんな時期なので、地面からの冷えは少し気になったが、まあ足元を温かくしておけば問題はなさそう。

 

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前小河内岳あたりで雲に包まれて以降、天気は全く駄目。

暴風が常時吹き荒れていて、小屋にいても轟々と音が聞こえる。

 

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ドコモの電波が入るので、天気予報を確認する。

どうやら深夜にならないと、分厚い雲も風も収まらないようだ。

特にやることもないので、ここは晩飯を食べて早めの就寝。

 

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深夜3時半。

外に出てみると、昨日の午後から吹き荒れていた風もすっかり収まり、いつの間にか雲もなくなっていた。

深夜だというのに、ここ小河内岳山頂からは駒ヶ根や伊那の街明かりがよく見える。

南アルプスといえば最深部にあると思い込んでいたが、少し自分の中のイメージが変わった。

 

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山頂から少し下り、街明かりが遮られる場所で空を見上げると、そこは満点の星。

今まで誰にも会わなかった行程が、さらにこの場所を独占している錯覚になる。

 

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振り返れば荒川岳

到着時には見えなかった山々が、夜になって初めて見える。

 

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一度避難小屋に引き返して1時間程休憩し、日の出前に再び外へ。

冬季入口を開けると、いきなり富士山と朝のご挨拶。

 

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昨日歩いてきた稜線と、中央奥に塩見岳

まだ日の出には時間がある。

 

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小屋前から山頂へ。

この距離であれば、何往復も全く苦にならない。

 

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目前には、朝日ではっきり浮かび上がってきた荒川岳

 

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そして、ものの数分で山頂へ。

霜が降りる山頂は、気温も低く寒い。

早く早く、と日の出を待つ。

 

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富士山の左手から太陽は昇った。

体感気温もぐっと上がる。

ほんの半日前とは打って変わり、今日は上々の天気になりそう。

 

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中央アルプスにも朝の光が当たる。

 

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長野県側に切れ落ちた西壁は、薄い雪で白く様変わりしている。

 

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すっかり日も昇って、秋の高い空に心も踊る。

 

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まずは迫力の塩見岳

やや左奥には北岳も見える。

 

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さらに左手には、甲斐駒ヶ岳仙丈ヶ岳

 

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振り返れば荒川岳を筆頭に、南アルプス南部の山々。

 

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これは聖岳、兎岳か?

兎っぽい形をしているから、勝手にそう決めつけておく。

 

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 伊那谷を挟んで西側には、中央アルプスの山脈が並ぶ。

 

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 これは、恵那山?

 

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快晴の帰路は、こんなにも気持ちの良い道のり。

三伏峠までは展望が開けた楽しい散歩になるはず。

 

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戻りの道は単純明瞭。

塩見岳の方面に向かってまっすぐ歩く。

 

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この足跡は、雷鳥

南アルプスではまだ、お目にかかれたことはない。

 

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往路では雲に包まれてしまった前小河内岳も、十分の展望。

 

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それにしても、今日も誰も来ない。

知名度の割に素敵なルート、まさに穴場の山だなあ。

有名にはなって欲しくない。

 

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烏帽子岳あたりまで戻ってくると、もう少しで稜線歩きも終わり。

 

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最後まで右手に見えていた富士山にも別れを告げ、徐々に三伏峠の樹林帯まで高度を下げる。

 

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たまにハイマツが登山道中に這い出してきているのはご愛敬。

終始特に危険箇所もなく、岩をよじ登るような場面もなかった。

 

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三伏峠へ戻ってきた。

トイレはもちろん使えないので、そのまま駆け下りる。

 

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にしても、鳥倉林道。

傾斜もなだらかで良い道なんだけれども、たまに朽ち気味の橋がある部分だけ注意。

 

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登山口近く、標高1800m付近が紅葉の最盛期だった。

 

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登山口まで降りてきたあとは、忘れかけていた長い長い林道歩き。

 

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往復10km超え。全行程の半分に近い。

林道工事が終われば半分に短縮されることを考えると、客観的に考えれば、なにも今来なくても...と確かに思う。

 

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でも、そのおかげで本当に静かな山歩きを楽しめたので、まあそれも良し。